新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の流れにより、ビジネスのリモート・テレワーク化が半ば強制的に浸透しました。従来から、対面でないと完結しない部分が多くデジタル化が難しいと言われた不動産業界は、どのような動きになっているのでしょうか。
既に面談や内見はオンライン化が進む
LIFULL HOME’Sなどの大手不動産会社をはじめ、一部では既に「オンライン商談・オンライン内見」のサービスを始めています。
商談はLINEやZoomなどを活用してウェブ上で行われ、遠隔地の顧客とも簡単に話ができるなど、好評のようです。不動産の商談というと顧客がつい身構えてしまいがちですが、自宅でリラックスしてもらって話せるのもメリットだといいます。資料もウェブ上ですぐ送ることができ、商談の進みが早くなったという不動産営業マンの声もありました。
一方で、回線の不具合などでやりとりが途切れてしまったりすることはデメリットです。微妙なニュアンスや相手の空気感が伝わりにくいのも課題でしょう。また日頃からパソコン操作等に慣れていない方との商談においては、そもそも実現できないケースもあるようです。
オンライン内見では、現地に出向いた不動産会社のスタッフがビデオ通話により顧客とつながり、会話しながらリアルタイムで映像を送ります。窓を採寸してもらったりコンセントの位置を確かめてもらったり、実際に内見したかった部分を依頼できるのです。
遠方への引越しで現地へ行けない人や移動時間を節約したい投資家層から好評な一方、細かい部分まではビデオ通話で確認できない、実物見ないとやはり不安、といった不満の声もあるようです。
IT重説は現状、賃貸のみ
不動産契約のIT化でもっともネックになっているのが、重説(重要事項説明書)です。不動産の契約における必須プロセスで、従来は対面でしか認められないものでしたが、2017年10月より賃貸契約のみオンライン化が解禁されています。
賃貸契約はそれほど金額が高くはなく、借り手の側も現地に行けなかったり、それほど時間や手間をかけたくなかったりする人が多いため、徐々に重説までITにするケースが増えているようです。
気になる売買契約のIT重説については、現在国土交通省の社会実験中で、2020年9月末に個人間を含む売買取引についての社会実験が終了した後、解禁の可否について判断する流れになっています。今年3月に発表された中間報告によると、社会実験に参加した事業者59社のうち、全体の8.5%にあたる5社がIT重説を実施しています。件数は143件で、そのうち139件が投資用物件です。
なぜ極端に投資用物件に偏っているのかというと、一つには「内見」という要素があるでしょう。この社会実験で成約した居住用物件4件はすべて実際に内見をした上で成約しましたが、投資用物件の場合は約9割が内見なしです。投資用物件においては、内見プロセスを重視しない顧客が多いのかもしれません。
投資用物件から完全IT化?
もし社会実験の終了後に政府が売買のIT重説解禁に踏み切った場合、まずは投資用物件から利用が広がっていくことになるでしょう。投資用物件は内見をせずに契約する人がもともと一定数いることが社会実験によって明らかになったことに加え、購入者が契約慣れしている場合、「対面がない不安」に駆られることもありません。
いい物件は早い者勝ちですから、アナログのやりとりに時間を取られていた部分を省けるのならば購入手続きをより加速させることができます。
順次オンライン化が進んでいくことはほぼ確実
売買のIT重説が解禁されるかどうかは別として、不動産取引について今後オンライン化が進んでいくことは間違いないでしょう。ただ、数年前に言われていたほどオンライン商談・内見などが浸透しているわけではないのも事実。物件購入者や現場の営業マンにしかわからないオンライン化の弊害は、まだまだ整理されていないのが実態です。
また、不動産会社もオンラインで接するのが可能な顧客だけ相手にしていては、いい取引をみすみす取り逃がしてしまいます。IT技術を活用しながらも、オンラインならではのリスクを回避してスムーズな取引ができるよう、不動産会社の対応が待たれるところです。