今回は、大家が頭を悩ませる賃貸未払いの賃貸人への対応について、経緯から決着までを順を追って3回に分けて説明したいと思います。
貸主をA、借主をBとしてお話していきます。
Aさんは、所有するマンションの1室を賃貸に出していますが、賃借人Bさんの賃料未払いが3カ月続いています。AさんはどうにかしてBさんから賃料の回収をしたいと考えています。回収するためには、Aさんはどのような行動をとればよいのでしょうか。
第1段階 管理会社に相談
Aさんは、マンションの管理を管理会社に委託しています。まずは委託している管理会社に相談をしてみることにしました。
Aさん「Bさんからの家賃の支払がもう3カ月もありません。どうにかなりませんか?」
管理会社の担当者「分かりました。それではこちらから支払いについて問い合わせてみますので、しばらくお待ちください」
Aさんは、管理会社が未払いの家賃を回収してくれるのだろうと思い、ひと安心しましたが、1カ月ほど経っても一向にBさんから未払いの賃料は支払われません。
このためAさんは再度、管理会社の担当者に問い合わせを行いました。
Aさん「まだBさんからの家賃の支払がないのですが、きちんと問い合わせをしてくれたのですか」
管理会社の担当者「家賃を支払うようにBさんに手紙を出しました。こちらでできることはもうありませんので、まだ家賃が支払われていない場合はご自身で対応をお願いします」
Aさん「管理会社は未払い家賃の回収をしてくれないのですか?」
管理会社の担当者「管理会社ができるのは、家賃の払い忘れなどがあった場合に、手紙を書いて注意を促す程度です。注意喚起をしたにもかかわらず、支払いがない場合の交渉などを管理会社が行うと『非弁行為(ひべんこうい)』になる恐れがあり、できないことになっています」
非弁行為(ひべんこうい)とは
弁護士法72条で、弁護士以外の者が法律事務を行うことは「非弁行為」とされ禁止されています。
法律事務とは、「法律上の権利義務に関して争いや疑義があり、または新たな権利義務関係の発生する案件」のことです。つまり、法律上のトラブル対応または、これからトラブルに発展しそうなことの対応は「法律事務」に該当します。
家賃の未払いが3カ月続き、管理会社から支払を促す手紙を発送してもらったにもかかわらず支払がない状態をみると、単にBさんが家賃の支払を忘れているというものではないようです。
つまり、今後AさんがBさんと直接交渉を行ったり、場合によっては裁判などの法的手続きを取ったりしなくてはならない状態であるといえるでしょう。
Bさんと交渉を行ったり、裁判を行ったりすることは「法律事務」になります。弁護士ではない管理会社が行うことは「非弁行為」に当たるので、管理会社は行うことはできません。
管理会社に建物の管理を丸投げしているオーナーも多いかと思います。しかし、管理会社にできることには限度があり、注意喚起程度で解消するトラブルであればともかく、本格的なトラブルについてはオーナー自身で対応しなくてはならないのです。
第2段階 内容証明郵便の発送
管理会社から「自分で対応してほしい」と言われたAさんは、地域が主催する無料法律相談会で相談してみることにしました。
弁護士「事情は分かりました。まずはBさんに対して、配達証明付き内容証明郵便で、未払い賃料の支払いを催告し、それでも支払いがなかったら賃貸借契約を解除してはどうでしょうか」
Aさん「配達証明付き内容証明郵便とは何ですか?」
弁護士「こういう手紙を誰から、誰それに出しました、ということを、郵便局が公的に証明してくれる郵便のことです。また、配達証明が付いていると、いつ相手が手紙を受け取ったかが明らかになります。
未払い賃料の請求をした事実は非常に重要なので、相手が『そんな手紙を受け取っていない』などの言い逃れができないように、配達証明付き内容証明郵便を利用したほうがいいですよ」
Aさん「管理会社からすでに『未払いの家賃の支払をしてほしい』という内容の手紙を送ってもらっているのに、また手紙を送らなくてはいけないのですか?」
弁護士「もし、賃料不払いを理由にBさんとの賃貸借契約を解除しようと思うのであれば、未払の賃料の支払いを催告したのに支払われなかった、という事実が必要になります。管理会社からの手紙が法的に『催告』としての条件を満たしていないことも考えられますので、きちんと催告の郵便を送ったほうがいいでしょう」
Aさん「家賃を払ってくれないことを理由に、Bさんとの賃貸借契約を解除することもできるのでしょうか?」
弁護士「賃貸借契約を解除するには、単に契約違反というだけでなく、貸主・借主両者の信頼関係が破壊されている状態である必要があります。賃料の支払いは賃貸借契約の最も重要な要素です。これが3カ月も支払われていない状態は、信頼関係が破壊されたと考えられるので、支払いの催告をしたにもかかわらず、支払がなかった場合には、契約を解除できることが通常ですよ」
Bさんからこれ以上賃料が支払われない状態であることは困ります。Aさんは、賃料の支払いが続く場合は、Bさんとの賃貸借契約を解除することを決め、インターネット上のひな型を参考に、Bさんに対して「未払い賃料を7日以内に支払ってほしい。支払がない場合には賃貸借契約を解除する」という内容の内容証明郵便を発送しました。
賃料未払いを理由に賃貸借契約を解除しようとする場合、通常は未払い賃料の支払いを求める催告を行い、それでも支払いがない場合に契約を解除するという流れが一般的です。
賃貸借契約書では「1カ月家賃未払があった場合には、催告をしないで賃貸借契約を解除できる」という条項がある場合があります(この条項を『無催告解除特約』といいます)。
上述のとおり賃貸借契約においては、単に債務不履行(契約違反)が生じているだけではなく、それによって両者の信頼関係が破壊されているという事実が必要となります。
従って、無催告解除特約に基づいて催告をせずに解除できるのは、「無催告解除を認めても不合理でない場合」に限定されています。
トラブルを避けるため、内容証明郵便で催告を行う
無催告解除を認めても不合理でないか否かについては、具体的な事情によって判断されます。このため、無催告解除特約に基づいて解除を行っても、場合によっては、あとから「無催告解除特約に基づく解除は不合理であるから認められない」という判断をされるリスクがあります。
したがって、賃貸借契約において無催告解除特約がある場合、念のため催告を行っておいたほうがいでしょう。
催告は上述のとおり、後のトラブルを避けるため内容証明郵便で行うことが一般的です。
内容証明郵便は、未払賃料支払の催告をしたことの明確な証拠となる反面、1行20字以内、1枚26行以内、①、②など、〇で囲んだ文字は2文字とカウントされるなど、書き方に厳密な規定があります。発送の際には注意しましょう。
また、内容のボリュームにもよりますが、1通あたり2,000円程度の費用がかかります。
さて、管理会社は非弁行為にあたるため、法律上のトラブル対応ができないことを知ったAさん。Bさんが未払いの家賃を支払ってくれることを期待して、配達証明付き内容証明郵便を発送しました。
しばらくすると、Bさんが確かに内容証明郵便を受け取ったという内容の配達証明書を受け取りましたが、それでも一向に家賃は支払われませんでした。
そこでAさんは、いよいよBさんに対して法的手続きを取ることを決めました。
次回は、AさんがBさんに対して法的手続きを取る場合の流れについて、解説します。