相続税対策として不動産を売買する際の注意点

相続税を節税するために不動産を取得することは、当局から厳しく見られ、場合によっては節税した金額を更正されるだけでなく、過少申告加算税を課されることもあります。節税目的でなくとも、相続が発生する前後の期間に不動産を取得すると当局から厳しく見られてしまうので、みなさんご注意ください。

相続税の課税回避を目的とした不動産の売買は税の減額を否認されることも

平成27年の税制改正により相続税の遺産に係る基礎控除額が減額されたため、東京23区内をはじめとする全国主要都市中心部に一戸建てを所有していて相続人が同居していない等の場合には、特に資産家でなくとも相続税が課税されるようになりました。

これを契機として、また、日銀による超低金利政策が重なったこともあり、相続税の負担軽減を目的とした賃貸不動産の購入が盛んになりましたが、中にはあからさまな相続税対策であるとして課税当局から税の減額を否認される事例もあるようです。

課税当局は、相続税の課税回避のためだけの賃貸不動産の取得に対しては厳しく対応してきますので、そのように判断されないことが大切なのですが、最も否認されやすいのは、相続開始直前に賃貸不動産を取得し、相続税が安くなった恩恵を受けた後すぐに売却することです。

不動産を8年所有すれば節税のためと思われない

相続開始直前とはいつ頃をいうのか法律や通達上の定義はありませんが、どんなに遅くても相続開始3年前には取得しておきたいところです。

これは、非上場会社が所有する不動産のうち、課税時期前3年以内に取得したものについては路線価評価や固定資産税評価による評価額ではなく通常の取引価額により評価することとなっているためです。

財産評価基本通達上は個人所有不動産にはこのような3年縛りはありませんが、法人所有不動産に3年縛りがあるため、課税当局は、個人所有不動産についても相続開始前3年以内の取得についてはあまり良い印象を持たないようです。

よって、賃貸不動産を取得する時期は早ければ早い程良く、遅くても相続開始3年前には取得しておいた方が無難です。

また、相続発生後、早期に売却するのは避けた方が良く、一般的に相続税の税務調査が相続税申告書を提出してから2年後又は3年後に実施されることが多いため、できれば税務調査が終了するまでは保有しておきたいところです。

よって、賃貸不動産を取得してから売却するまで(必ずしも売却する必要はありませんが)、どんなに短くても8年程度は要した方が良いということになります。

不動産が適正な収益をあげていることも大事

次に、取得する賃貸不動産は適正な収益性が継続していることが大事です。

収益性が継続するとは、入居者から収受する家賃から、管理費や支払利息等の必要経費と借入金の返済額を控除してもなお収支がプラスであることをいいます。

不動産賃貸業も事業ですから、時にはうまくいかず収支がマイナスになる月もあるかも知れませんが、数年単位で適正な収支が維持されている必要があります。

そうでなければそもそも事業として成り立たないため、最初から収支がマイナスになることがわかっているような収益性の無い賃貸不動産の取得は、相続税の軽減のみを目的とした賃貸不動産の取得であるとして課税当局に否認される可能性が高くなります。

今後、更なる人口減少社会が訪れ賃貸不動産は供給過多となることは確実ですので、総体的に家賃は下落し、空室率も増加する可能性が高いわけですが、そのような環境においても収益性を継続することができる賃貸不動産を取得することが大事になります。

不動産を取得するなら事業として継続する覚悟を持つこと

賃貸不動産の取得による相続税対策を検討するとき、その多くは金融機関からの借入を伴いますが、借入返済が精神的負担であるとして、対策を検討している段階から相続発生後は売却ありきで計画することも多いです。

しかしながら、不動産賃貸業も事業ですから、単に相続税対策として考えるのではなく、新しく事業を開始するくらいの覚悟と意識を有することが望まれます。

そうすることで適正な収益性が継続する物件を選定するようになり、収益性が継続するのであれば早期売却という発想も消え、ひいては課税当局から問題視されることなく結果として最良の相続税対策になるものと思われます。

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